広島・山口県境の小瀬川上流にある弥栄湖の漁業権を持つ芸防漁協(岩国市、福田豊実組合長、百八十人)が、在来種を食べるとして問題となってきた外来種のブラックバスを七月一日から容認し、釣り客誘致を図ることを決めた。中国地方で初めて。釣りファンは歓迎するものの、広島、山口両県は「生態系を乱す」と困惑している。
大竹市、岩国市、山口県美和町にまたがる弥栄ダム(一九九〇年完成)のダム湖で、釣り人の放流などで現在は多数のブラックバスが生息する。漁協は既に五月末、餌となるワカサギ卵一千万粒を放流。捕らえたブラックバスのリリースも以前は看板を立てて禁止していたが、七月から容認する。その代わりに、強制ではないが釣り客から一人一日二百円の協力金を取る。
漁協が今月十二日、湖を利用する十三の釣り団体に送った念書では、ブラックバスが漁業権のある魚種に認定されるよう努力することもうたった。福田組合長は「漁協は資金難で完全駆除するのは難しい以上、逆転の発想で釣り人に共存共栄を呼び掛けた」と話す。
小瀬川のアユも放流する漁協は年五百万円以上の経費が必要なのに対し組合費収入は、百六十万円程度。差額は弥栄ダム建設の漁業補償金などで埋めてきたが、数年で底をつくという。リリースの是非をめぐり漁協側と反目してきたバス釣り愛好家たちは歓迎。湖でバス釣り大会を開いている大竹市の会社員金森信志さん(46)は「お金を払っても堂々と釣りを楽しみたい。長年の願いだった」と話す。
これに対し、行政は戸惑いを隠せない。広島、山口両県は内水面漁業調整規則でブラックバスの移植を禁じる。漁協側は餌の放流は「移植」ではなく違反にならないとみるが、広島県漁業調整室は「ブラックバスの食害が指摘されており好ましくない」、山口県漁政課も「生態系を乱す恐れがある」と指摘する。
ブラックバス 北米原産の肉食魚。オオクチバスやコクチバスなどの通称。日本では1925年、芦ノ湖に放流されたのが始まりとされ、現在は全国に分布する。ルアー(疑似餌)に反応し、引きが強いため、釣りの対象魚として人気がある。一方で在来魚種への影響が指摘され、漁業関係者と釣り人のトラブルが絶えない。ほぼ全国の自治体が放流やリリースを禁じている。
■在来種保護 議論を
【解説】
「在来魚種を食べて生態系を乱し、漁業被害をもたらす害魚」として各地で嫌われてきたブラックバスを芸防漁協が認める背景には、苦しい台所事情がある。しかし、餌を与えてまで増やす試みは、生態系維持の観点から懸念がぬぐえない。
釣りファンの要望に応える形で神奈川県の芦ノ湖、山梨県の河口湖、山中湖、西湖の四カ所でブラックバスが漁業権魚種に認定され、放流もされている。日本釣振興会の井上悦朗専務理事は「バスが繁殖し、釣り人も楽しんでいる以上、地域を潤すための活用は現実的な発想」と話す。
しかし、小瀬川水系全体の在り方を踏まえた議論は果たして十分だったか。環境省野生生物課は「在来魚類が減ると食物連鎖が崩れ、餌のプランクトンが繁殖する可能性がある」と指摘する。そうなれば下流のアユの生育にも影響しかねない。バスが湖から拡散すれば、アユ漁そのものが危機にひんする恐れもある。
全国内水面漁業協同組合連合会の佐藤稔顧問は「在来種を守り、増やすのが漁協の役目。外来種を増やすとは本末転倒だ」と批判する。今後、議論を呼ぶのは間違いない。(西均)
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